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宮崎地方裁判所都城支部 昭和29年(ワ)117号 判決 1957年3月01日

原告

前田藤則

被告

外山包光

主文

被告は原告に対し金拾万円およびこれに対する昭和二十九年十月二十日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

原告のその余の請求はこれを棄却する。

この判決は原告において被告に対し金参万円の担保を供託するときは仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金十三万円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決並に保証を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因としてつぎのように述べた。一、原告は昭和十六年九月十日被告から都城市上町二三七一番地の宅地四十五坪を賃借して右宅地上に家屋第九二番、木造瓦葺二階建住宅炊事場建坪二十一坪七合外二階坪十三坪七合の家屋を所有居住し、ブリキ製罐加工業を営んでいるものであるが、右家屋は腐朽が甚だしく、夏季の台風時を控えて危険であるため、昭和二十九年七月中旬から補強工事を始めた。二、ところが、被告は同年七月二十二日原告に対して増改築禁止の仮処分をした。その理由とするところは、被告は原告に対して前記の宅地を賃貸したことはない。原告は右宅地を不法に占有しているものである、原告は右宅地上の家屋を増改築しているから、家屋収去、土地明渡が困難になるというのである。三、けれども、原告は被告に対し右宅地の賃借権を有するのであるから、被告から右のような請求を受ける理由はない。従つて右のような仮処分を受ける理由はない。そして右仮処分は同年九月八日判決により取消されるまで継続した。四、右の家屋はすでに表道路に面した部分の支柱および腰板等を取りはずしていたので、右仮処分によつて約五十日間もそのままにされ、ために、原告は名誉を毀損されまた、営業上に非常な支障を来たした。のみならず、昭和二十九年八月二十八日には台風第五号、同年九月七日には同第十三号、同月十三日には同第十二号に見舞われ、家屋は甚だしく動揺傾斜した。当時原告は妻マサヨ四十二歳、長男勇作二十二歳、長女千砂子二十歳、二女千里十六歳、三女広子十二歳、四女伊津子十一歳、五女富士子八歳の七人の家族をかかえ、いつ家屋が倒れるかとその心配は言語に絶するものがあつた。これ全く被告の不当な処分に因るものであるから、被告は原告の蒙むつた精神上の苦痛に対して慰藉する義務があり、その額は金十三万円が相当である。それでこれが支払を求むるため本訴に及ぶ。(立証省略)。

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、請求原因一の中、原告主張の宅地上にその主張のような建物があること、右の建物が昭和十六年九月十日から昭和二十六年八月二十五日まで原告の所有であつたことは認めるが、その以後も原告の所有であることは否認する、原告がブリキ製罐加工業を営んでいることは認める、その余は不知、請求原因二は認める、請求原因三の中、原告が昭和十六年九月十日から昭和二十六年八月二十五日まで被告との間に賃貸契約があつたことは認めるが、その余は否認する、請求原因四の中、原告主張の各台風があつたこと、原告およびその主張の家族が前記建物に居住していたことは認める、但し家族の年令は不知、前記家屋の道路に面する部分の支柱および腰板等が仮処分当事取りはずしてあつたことは不知、その余は否認すると述べた。(立証省略)。

理由

当事者間に争のない事実は前記事実に摘示した通りである。この事実と原告提出の各証拠によれば、原告主張の事実はすべてこれを認めることができる。右の認定に反する証拠は信用しない。甲第一六号証の一、二によれば、原告は資産としては住家一棟三十五坪四合この評価額二十万一千九百円を有し、また被告は同じく店舖十八坪五合、住家十七坪七合五勺、店舗住家五十六坪二合五勺、宅地四筆合計二百二十三坪、以上評価額合計金二百八万五千四百四十円を有していることが認められる。原告が前記被告の仮処分によつて名誉、信用を毀損され、また前記台風のため大勢の家族を抱えて恐怖におののいたことは想像できることができる。それで以上の事実、検証並に鑑定人西直道の鑑定の結果および弁論の全趣旨を総合して、被告は原告に対し慰藉料として金十万円を支払うのが相当であると認める。

それで原告の請求は右の範囲において相当として認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 井上藤市)

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